オキャマが銭湯で...
お嬢:東京都中野区には、ワタシたちオキャマも多いけど、銭湯も多いのです。
タカシ:え?突然なに言い出してんの?
お嬢:だーかーらー、今日は銭湯の話をするわよ!
タカシ:あ、どうぞ、ご自由に。オレはちょっと出掛けてくる。
お嬢:ちょっと待ちなさいよ!どうせ行く宛てなんかないくせに。
タカシ:ハァ?仕事行くんだよ。仕事。お前が働かないからオレが働いてるんじゃないか。
お嬢:あ、そっか。それもそうだね。行ってらっしゃい。でも、さっき病欠の連絡しちゃったよ?
タカシ:おいおい、勝手なマネしやがって。オレはどこも悪くないぞ。
お嬢:顔が不自由じゃない。
タカシ:マジブッコロス。
お嬢:ヤルならベッドの上で殺して☆
タカシ:ホントに気分が悪くなってきた。
お嬢:ほうらね。今日は会社お休みしてワタシとお話しましょ。
タカシ:・・・。
お嬢:ワタシね、昨日銭湯に行ったのよ。お友達と。
タカシ:へー。何湯に行ったの?ウチの近所っていっぱい銭湯あるじゃん。
お嬢:なんだっけ。ほら一番近いところ。うーん、名前が思い出せない。レトロな名前だった気がするけど。
タカシ:銭湯の名前なんて普通そんなもんでしょ。
お嬢:ホントよねぇ。もうちょっとポップな名前にしてくれればいいのに。”マルセイ湯”とか”ブルゴーニ湯”とか。
タカシ:ブルゴーニ湯はちょっと強引だったな。でも、どうして銭湯へ?風呂なんてシャワーで十分じゃん?
お嬢:バカね。たまーに大きな湯舟に入りたくなるときがあんのよ。女の子は大変なんですぅ。アルフェ
タカシ:あ、そ。このカマ野郎がっ。てか、湯舟って言うくらいだから、そのまま海に垂れ流して欲しいところだね。日本海あたりに。
お嬢:あー、それいいかも!日本海なら雪が見られるじゃない!
タカシ:(こいつに皮肉は通じないか)・・・。
お嬢:でね、その一緒に銭湯に行った友達ってのが、銭湯初体験だったらしく、すごかったのよ。
タカシ:すごいって、何が?
お嬢:まず、靴箱のところでさっそくおかしかったんだけど、ほら、靴用のロッカーで、木の札を引き抜くタイプのがあるじゃん?
タカシ:あるね。居酒屋とかにもあるヤツっしょ?
お嬢:そう。それをね、その木の札をね、その子ってばいきなりポップに引き抜いたの。
タカシ:え?靴を入れずに?
お嬢:そうなのよ。何してんだろって思うでしょ?
タカシ:確かに。
お嬢:で、その後どうするのかじっと見守っていたの。
タカシ:お前も性格悪いな。教えてあげればいいものを。
お嬢:だってぇ、もしかしたら、靴をその中に入れる何か斬新なアイデアがあるのかも知れないじゃん?
タカシ:いや、構造的に無理だろ。
お嬢:でね、その子ってば札を手にしたまま、ロッカーを開けようとして扉をガチャガチャ動かしてるの。さすがにワタシも可哀そうになってきて言ってあげたわ。「札を入れてみたらいかがですか?」
タカシ:お前の敬語って怖いよな。んでんで?
お嬢:そしたら、そのまま何事もなかったかのように札を差し込んで靴を入れやがったわ。
タカシ:恥ずかしかったんだろうな。相当。
お嬢:で、まぁ、こういうのはよくあることだからいいんだけど。
タカシ:めったにないだろ。
お嬢:とりあえずお金を払って、いよいよ銭湯に入ったのね。
タカシ:てか、どっち?男湯?女湯?
お嬢:オキャマ湯。
タカシ:そんなのあるのか?
お嬢:あるよ。オキャマ湯。てゆうか、一応男湯なんだけど、中野区の銭湯はオキャマが多いの。
タカシ:・・・なんだか嫌な光景だな。オキャマがきゃっきゃと騒いでるのか?
お嬢:・・・人によっては。
タカシ:ノーマルな男子が襲われたりしない?
お嬢:それはない。アリエナイ。オキャマってその辺キチンとしてるから、ノンケさんには手を出さないわよ。
タカシ:それを聞いて安心したよ。
お嬢:てゆうか、そういう心配をする男子ほどブチャイクなのよね。自意識過剰もいいとこ。オマエなんかに興味ねぇっつーの。
タカシ:ご、ゴメンナサイ。
お嬢:わかってくれればいいのよ。きゃは☆
タカシ:それで、後は何事もなかったのか?
お嬢:それがさぁ、お金を払って、ロッカーで生まれたままの姿になって、お風呂場に入るまではよかったの。
タカシ:中のロッカーは間違えなかったんだな?
お嬢:さすがにね。もともと扉が開いてたし。あれを間違えるようじゃ人としてどうかと思うわ。
タカシ:それもそうだな。んで?
お嬢:でね、中に入って、イスと洗面器を持って並んで座ったの。
タカシ:ほう。
お嬢:まずは、お風呂に入る前に体を洗おうと思って、シャンプーを始めたのね。ワタシ。
タカシ:お嬢は、まず頭から洗うんだな。
お嬢:うん。心臓に遠いところから洗うとイイって聞いたし。髪は女の命だお。
タカシ:オマエ、坊主じゃんか。
お嬢:(無視)でさぁ、ワタシが髪を洗っている間、その友達もシャンプーしてるのかなって、チラッと様子を見たの。そしたら、
タカシ:そしたら?いきなりリンスしてたとか?
お嬢:惜しい。てか、友達も坊主に近いからリンスなんか使わないし。
タカシ:じゃあ、どこ洗ってたの?
お嬢:それがさぁ、どこも洗ってないのよ。ずーっと、お湯出すとこをいじってるのね。
タカシ:なんじゃそりゃ。てか、さっきの答え、惜しくないじゃん。
お嬢:ワタシ、心配になって聞いたの。「どうしたの?」って。
タカシ:それで?
お嬢:そうしたら、友達ってば、蛇口が壊れてるって言うのね。
タカシ:なるほど。あそこも結構古いからな。
お嬢:でもさぁ、なーんかその子の言葉を鵜呑みに出来なくて、ほら、靴箱の一件もあったし、もう一度お湯を出してもらうようお願いしてみたの
タカシ:・・・なんか、嫌な予感が。
お嬢:もうさぁ、あたしゃ、驚いたよ。
タカシ:そいつ、何やってた?
お嬢:普通、銭湯の蛇口って、押すと一定量のお湯なり水なりが出るじゃん?
タカシ:そうだね。
お嬢:それを、その子ってば、蛇口を、時計回りにくるくる回してるの。
タカシ:はぁ?
お嬢:思わず聞いちゃった。「あなた、それ、ホンキ?」って。
タカシ:ホンキなんだろうな。きっと。
お嬢:あれって、もともと押すものだから、永遠に回せるじゃん?しばらく見てたら、今度は反時計回りに回し始めて、「やっぱ壊れてる」とか言うの。
タカシ:オマエが壊れてる、って言ってやればよかったな。
お嬢:同意。てゆうか、ワタシ、シャンプーの途中だったし、面倒だったから蛇口を思い切り押してお湯を出してあげたわ。
タカシ:そいつ、どんな反応だった?
お嬢:笑ってた。ワタシも釣られて笑ってみた。
タカシ:そうだよな。笑うしか、ないよな。
お嬢:その後のその子、よっぽどさっきのが懲りたのか、すべてワタシと同じ行動をするのね。
タカシ:へー。
お嬢:ワタシと同じタイミングで体を洗い、顔を洗い、同じ回数だけお湯で流したり。
タカシ:徹底してるな。
お嬢:お風呂もそう。同じ順番に、マッサージ風呂、炭風呂、電気風呂って。そういえば、電気風呂ではちょっと悲鳴を上げてたけど。
タカシ:(笑い)なんか、カワイイ。
お嬢:てゆうか、ワタシも軽く悲鳴上げちゃったけどね。あは。
タカシ:やっぱ徹底してるな。
お嬢:で、同じタイミングで体を拭いてお風呂場を出て、体重計に乗って驚いたフリをして、服を着て銭湯を出たの。
タカシ:なんか、生まれたてのヒヨコが親の真似をするのに似てるな。もし、お嬢が牛乳を買ったら、同じく牛乳を買ったんだろうな。
お嬢:ワタシ、お風呂上りに牛乳なんか飲まないわよ。
タカシ:だから、例えばの話だよ。
お嬢:知ってる。
タカシ:・・・お、オマエ。
お嬢:というわけで、今日も寒いから銭湯行かない?
タカシ:いいね。行こうぜ行こうぜ。
お嬢:あ、ちょっと待って。
タカシ:ん?
お嬢:(部屋の窓を開ける)やっぱ無理。寒いから家でじっとしてましょ。
タカシ:(あきれた顔)・・・。